2005 Event Report |
現代特殊奏法/ライブ・エレクトロニクス特別公開講座
2005年11月7日 午後4時20分開演 尚美学園大学4号館5階音楽ホール
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音楽の専門授業が一番多く集中している月曜日ということもあり、学生の参加数が心配されたが、
それらの授業担当教官の特別講座参加希望学生に対する出席の配慮もあり、
予想以上の参加者を得て開催することができた。
講座は現代特殊奏法と、演奏者が得意とするレパートリーの一つである
ライブ・エレクトロニクス作品を中心に行った。具体的な内容としては、
まずCDのプレイバックを流しながら1曲演奏。続いて、CDに収録されている電子音響の制作の模様、
それに対するヴァイオリンパートの制作の模様などをお話していただき、
その後で、講座参加者との質疑応答に入る、という形で行った。
参加学生の大半は、ポピュラー系の音楽を創作や標準的なクラシックの
楽器演奏を勉強している学生達であったが、聞き慣れない芸術音楽系の
ライブ・エレクトロニクス作品についても、その創作の手順や作曲家と演奏者の共同作業に関するお話に、
熱心に耳を傾けていた。質疑応答では、音響技術について、創作過程について、特殊奏法についてなど、
作曲系の学生の他、教授陣からも多くの質問が出され、この講座に対する大学側の感心の深さを表していた。
またヴァイオリンの実技指導教官は、ケントロス氏のヴァイオリン演奏を非常に高く評価し、
講座中しきりにブラボーと声を上げていたのが大変印象的であった。
この講座においてケントロス氏がテーマとしていた、
現代特殊奏法とライブ・エレクトロニクスの音響との関連性が、
みごとに浮き彫りになり、聞く者の集中力を途切れさせることなく講座を進行することができた。
ケントロス氏の知識の深さと、何よりも、教育現場の要求を良く把握して活動されていることが、
改めて示された講座であったと言えるだろう。
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京都公演 「現代特殊奏法マスタークラス」
2005年11月8日 午後7時開演 京都文化博物館別館ホール参加者:30人
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講座はザ・パールズ・ビフォー・スワイン・エクスペリエンスのレパートリー曲を中心に
特殊奏法を含む現代音楽が演奏された。演奏会と違って、曲の部分部分に焦点を当て、
特殊奏法の楽譜での記述の仕方、それがどう演奏に反映されるか、などが詳しく説明された。
平日の夜ということもあり、参加者は多くなかったものの、関西の音楽大学の学生、
演奏家、金沢からの作曲家まで来場した。舞台と客席に別れる通常の演奏会や講議とちがい、
ザ・パールズ・ビフォー・スワイン・エクスペリエンスのメンバーのすぐ後ろや横から楽譜と演奏を
同時に見学する事も可能となった。そのため、積極的に参加者が質問できたうえにそれぞれの質問に
演奏メンバーがじっくり細やかに答えられるという、有意義な講議となった。
関西では東京とくらべると、現代音楽の講習会(それもヨーロッパで活躍している現代音楽
アンサンブル・グループによる講習会)が開かれる事が大変少ないため、
関西の学生、作曲家達にとって貴重な勉強の場となったのではないかと思われる。
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京都公演「学生作品リーディング」
2005年11月9日 午後1時開場 京都文化博物館別館ホール 参加者:12人
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学生、若手作曲家にリーディング用の短い作品を事前に募り、2人の作品が選ばれ、
演奏された。リーディングは、観客がザ・パールズ・ビフォー・スワイン・エクスペリエンスの
メンバーによるそれら2曲の演奏をきき、演奏家と作曲者の公開レスンを見学するような形でおこなわれた。
通常の作曲の教師によるマスタークラスと違い演奏者からの視点で作品が解釈されるため、生徒達は、
より具体的、実用的なアドバイスや方法を学ぶ事ができた。前日の「現代特殊奏法マスタークラス」と同様に、
関西では質の高い現代音楽演奏家による学生リーディングは大変珍しいため、学生達、他の参加者にとって
有意義なリーディング・セッションとなった。
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京都公演
2005年11月9日(水)午後7時開場 京都文化博物館別館ホール 入場者:130人
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平日の夜にもかかわらず、現代音楽の演奏会に100人以上の観衆が集まった。
関西では現代音楽の演奏会自体が珍しく、開催数も少ないため、現代音楽を聴く人口が少ないが、
それはむしろ情報が人々に伝わっていない、というのも大きな原因のひとつである。今回は朝日新聞、
毎日新聞にこのコンサートの情報が掲載されたうえに、散らし、口コミなどでも情報がひろまったため、
通常の「コアな現代音楽ファン」だけでなく、一般の聴衆も来場したと思われる。
客層としては、音楽家、作曲家はもとより、音楽以外の芸術家、美学研究者、美術の学生、
地域の学校の教師、そのほかの音楽愛好家の人々が来場された。音楽関係者以外はほとんどが
「現代音楽を聴くのは初めて」という聴衆だったが、多くの人が「現代音楽は難解だ、
と言う先入観を吹き飛ばしてもらった」という感想をのこしてくださった。
また、美術キューレター/京都造形大学教授の福のりこさんも
このコンサートに関する文章を記して下さっている。
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徳島公演
2005年11月10日 午後7時開演 ホテルリビエラししくい2Fラウンジ 入場者:160人
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徳島県の最南端に位置する宍喰町は、県内有数のリゾート地として知られている。
その地を意図的に選んで移住する有名な芸術家もいるとはいうものの、他の地方の例に漏れず、
人口の減少が著しいため、文化芸術関係のイベントは地元ではほとんど開催されることも無く、
とても文化的な水準が高いとは言い難い。その地で1991年から順調に活動を続けている地元の音楽愛好会
「SHISHIKUI音楽友の会」に、集客や運営の協力をお願いして、今回の演奏会が実現した。
彼らは年に数回クラシックやジャズの演奏会を開催して、地元の文化振興に寄与しているとして、
高く評価されてきた団体で、過去にドイツのアンサンブルを迎えて演奏会を開催したこともある。
しかし、これまでに現代音楽の演奏会を行ったことは一度も無く、どちらかといえば、
初心者向けのプログラムが多かったと聞く。
今回の演奏会は、地元の任意団体「SHISHIKUI音楽友の会」とNPOグローヴィルとの連携により
実現したわけだが、未知の分野の音楽によるプログラムということで、地元の人々にとっては
非常に大きな挑戦であったであろう。それが、蓋を開けてみれば、これまでで一番の集客数となったという。
開催場所である宍喰町で育った作曲家、小島有利子の作品が演奏されるということで、
いつも以上に地元の人々の関心が高まり、音楽友の会の会員はもとより、
会員以外の来場者も多数獲得することができた。
しかし、聴衆のほとんどは、現代音楽どころか、友の会主催の演奏会以外で
クラシック音楽に触れる機会も無いような人ばかりである。
その専門知識の無い人々が、演奏者の素晴らしい表現力に酔い、
5分間に凝縮された真珠のような時間に酔い、最後には涙さえ浮かべている人が多数見られたのである。
芸術を鑑賞するには、実は専門知識はそれほど必要では無いということや、芸術の根本的なあり方を改めて
示してくれたイベントだったと言える。
文化的に未開の地ともいえるような僻地において開催された、極めて芸術性の高い演奏会に、
地元のメディアも高い興味を示し、徳島新聞社では開催日の10日前に「鳴潮」(朝日新聞天声人語に相当)
に取り上げた。当日も文化担当記者が取材に訪れ、演奏後には、立ち会った作曲者の小島に対して
インタビューを行い、10日後に大きく掲載された。
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東京公演 「公開リハーサル」
2005年11月11日 午後3時開演 スウェーデン大使館オーディトリアム 参加者:15人
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鶴見幸代と山本裕之が初めてリハーサルを行った。
既に京都・徳島で作曲者の立ち会いなしで演奏しているので、
ザ・パールズ・ビフォー・スワイン・エクスペリエンスは自分たちなりにある程度演奏をこなしていたが、
公開リハーサルでは解釈や演奏法の修正など具体的な内容に踏み込み、
深い内容のやりとりが公開でなされた意義は大きい。
そのほかに小島有利子やスウェーデン人作曲家のいくつかの作品が断片的に演奏された。
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東京公演
2005年11月11日 午後7時開演 スウェーデン大使館オーディトリアム 入場者:145人
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コンサートは徳島と同じプログラムで、ヴァイオリンのジョージ・ケントロスによる
軽妙なスピーチ(通訳:小島有利子)を間に挟みながら行われた。
会場の定員がきっちり100人だったため、先着順でチケットを発行した。
スウェーデン・スタイル期間中ということもあり、広く宣伝もされたため、
観覧希望者が定員オーバーし、30人以上を断わることになるほど、関心が集まった。
音響はコンサートホールのために作られた会場ではないためとてもデッドで当初は懸念されたが、
京都公演ではとても残響の多いホール、徳島もまた音響の異なるホールだったため、
むしろバラエティーに富んだ演奏ツアーになった。
観客層は関東地方の音楽関係者や音大の学生だけでなく、一般の聴衆、
他のジャンルの研究者もおおく、また外国の方々も来場し、多様な客層であった。
東京公演のホールは観客と演奏家達の距離が大変近く、それが臨場感を増す良い結果にもつながった。
また、飲み物を用意し演奏家と観客との歓談の場を設け、貴重な交流の機会となった。
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東京公演「学生作品リーディング」
2005年11月12日 午後2時時開演 公園通りクラシックス 参加者:29人
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学生にリーディング用の短い作品を事前に募り、5人の作品が選ばれ、演奏された。
演奏者は楽譜にのっとって演奏し、その後学生と楽譜上の意図などについて話し合いながら、
演奏上の問題、効果、楽譜の表記方法などについて指摘を行っていた。
学生は大学の通常の授業ではほとんど触れることのできない「現場」からの指摘、
そしてヨーロッパの現代音楽エキスパートから直接学ぶ機会を得た。また公開で行われたため、
観客にもインパクトがあった模様である。この類のリーディングはヨーロッパでは広く行われているが、
国内では90年代に秋吉台国際セミナー、現在は武生音楽祭で行われている。
東京でのこのような機会は貴重であった。
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「エレクトロニクス作品ライブ」
2005年11月12日(土) 午後2時開演 公園通りクラシックス 入場者29人
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学生アーティスト2人のステージ各15分とPBSEによるステージ約30分による構成で行った。
セッティング、機材入れ替え、通訳等を含めて、約1時間半のプログラム。
学生アーティスト2人の作品は、作曲者自身がステージ上でコンピュータ機器のマニピュレーションを行い、
クラシックという枠にとらわれない自由な発想 による、テクノやポップ的な要素の作品が演奏された。
一人目のチャン・ミーによるオープニングの曲では、PBSEメンバーのうち、
ヴァイオリン、チェロ、ピアノの3人との共演により即興を含む演奏が行われ、
アジア的とも思えるような、独特の雰囲気を醸し出すことに成功していた。
二人目の高橋征司による作品は、テクノという表現形態をとった新しい時代の具体音楽。
学生アーティスト達にとっては、このような公式の演奏会で発表の機会を持つことや、
世界的に活動している演奏者との共演は、大変大きなステップになったようである。
後半のPBSEによるステージでは、スウェーデンやアメリカの作曲家によるライブ・エレクトロニクス作品と、
今回特別に、エレクトロニクスは使わないものの、制作の過程において、エレクトロニクスを分析して
器楽パートに応用して作曲された作品が演奏され、エレクトロニクスと器楽音の関連性などを
クローズアップした、興味深いプログラムとなった。
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June Event Report |
作品はそれぞれ異なる編成で、メンバー6人全員が演奏する作品ばかりではなく、CD再生によるコンピューター音楽作品、木管二重奏、ピアノ・トリオなど、NYNMEの芸術的配慮によりバラエティに富んだプログラムが組まれており、高度な演奏技能による豊かな音楽表現によって、終始観客を惹き付けていました。日本の現代音楽界の傾向の違いから、過小評価されがちなカーターの音楽も含まれていましたが、今回、息もつかせないような鮮やかな演奏により、「カーターの音楽をこのように面白く聞いたのは初めて」などと、音楽の専門家の多くから賛辞をいただきました。
会場ロビーでは、この日演奏された全作品の楽譜やスケッチが展示され、手に取って興味深く見入る人も多く、グローヴィル独自のプレゼンテーションの方法が、少しずつ定着しつつあることが伺えました。
また今回初めて、演奏会当日の日中に公開リハーサルとプレ・コンサート・トークを行いましたが、当日の午後3時から行われた公開リハーサルには思いのほか参加者が多く、指揮者と演奏家、そして作曲家とのやり取りに熱心に聞き入っていました。

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プレ・コンサート・トークでは、アメリカ・ニューヨークの音楽事情に精通しているコンティ氏と、現代アート界で今最も注目されている美術評論家である松井氏の鋭いやりとりが大変興味深く、異分野からの視点を加えることによって、また新しい音楽の見方ができる、と多くの高評をいただくことができました。
NYNMEのメンバーも、松井氏、コンティ氏も、グローヴィルの企画のコンセプトをよく理解してくださり、様々な斬新な試みに対して、限られた時間の中で最高の力を発揮してくださいました。また、昨年度からご協力いただいているボランティアの方々や、今回新しく参加してくださった学生ボランティアの方々も、それぞれの持ち場でご活躍いただきました。改めて御礼申し上げます。

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NYNMEに限らず、海外ではすでに高く評価されているにも関わらず、受け入れ団体が無いために、日本で演奏会をする機会が持てないような演奏家や団体は数多く存在します。彼等の受け皿として貢献することもグローヴィルの重要な使命の一つと捉え、今後も誠意ある活動を続けていきたいと考えています。ご来場いただきました皆様、心よりお礼申し上げます。また次回の企画でお目にかかれますこと楽しみにしております。
6月1日の演奏会の前日に行われた、大学生向けの公開講座の様子もここでご報告しておきます。 場所は、尚美学園大学上福岡キャンパスの音楽ホール。開催までにあまり日数が無いタイトなスケジュールで企画案を持ち込んだのだが、作曲コースと音楽メディア・コースの教授陣が強い関心を示し迅速に動いてくださって実現しました。大学側の事務的な手続きに時間がかかり、学生への告知時間が2日間しかない中、開催キャンパスに勤務する専任/非常勤の全ての教員に対して学生への告知要請をしたところ多くの協力が得られ、開催当日は250名収容のホールがほぼ満席となりました。
普段、現代音楽にあまり接する機会が無い演奏コースの学生の来場者も多く見られたが、最後まで席を立つ者はほとんど無く、新しい音楽や演奏法の説明に、驚くほど熱心に、身を乗り出すようにして耳を傾けている姿が大変印象的であった。この日の講座内容に触発されて翌日の演奏会に訪れた学生も少なくありませんでした。公開講座や公開リハーサルなどは欧米ではよく行われていることですが、確実な集客に結びつけるためにも、今後の企画にどんどん取り入れたいと考えています。
関係者皆様、ご協力、ご厚情賜りまして誠にありがとうございました。 |
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2004年6月1日(火) |
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Tokyo
FM Hall |
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ニューヨーク・ニュー・ミュージック・アンサンブル |
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18:00会場 18:15―18:45プレ・コンサート・トーク 19:00開演 |
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全席自由 税込み
一般¥4,000(前売り¥3,800/会員前売り¥3,000
学生¥3,000(前売り¥2,800/会員前売り¥2,000 |
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=演奏者=
フルート/ジェーン・ローゼンフェルド、クラリネット/ ジーン・コープラッド、バイオリン/リンダ・クァン、チェロ/クリス・フィンケル、ピアノ/ステフェン・ゴスリング、打楽器/ダニエル・ドゥルックマン、指揮者/ジェフリー・ミラースキー
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アメリカ大使館協賛 コスモ石油株式会社協賛 NEC後援 NECソフト後援 日米交流150周年記念事業
他 |